ちっぽけな壁を目の前に


いつもよりも厳しい暑さが続いた日本から渡米して3ヶ月半、振り返ってみるといろいろな経験はしているけれど、やはりあっという間に時間が過ぎていっている感じは否めません。とくに先月から今月にかけてはmidtermがあったから、一つ一つの授業の試験勉強をしているうちに11月になり、今週でやっとmidtermも全部終わる・・・と気がついてみたらもう11月も半分が過ぎようとしています。日本で仕事をしているときは週末が違った意味であっという間に過ぎていったけど、サンディエゴに来てからは、まるで1日が数時間短くなってしまったような感じがする。だんだんと生活には慣れてきているけど、たまに電池が切れてしまったかのように全く何もできなくなる日もあって、そういう日は潔く諦めてビールを飲んで寝てしまうしかない。それも渡米当初に比べればだいぶ減ってきたけれど。


日本から来ている同級生の中には、サンディエゴでの生活にストレスを感じて『日本に帰りたい・・・』と言っている人もいます。一昔前に比べれば海外生活も便利になったことは確かだと思うけど、それでもやはり日本語は通じないし、日本では知らぬ間に享受していたアドバンテージのようなもの(背景の似通った友達、自分の行動に対する理解、ステータス)もないし、車がないとどこにもいけないし、コンビニもないし(そういう名前の“inconvenience”storeはある)、そして何と言っても勉強はけっこう大変だし、何か求めることがない限り、日本で仕事しながら生活する方が楽かもしれないな、とは思う。でも、そんなの当たり前だよね。誰もアメリカに留学することを強制しているわけではないし、本気で帰ろうと思ったら誰も止めはしない、快適な生活が送りたいのだったら最初からアメリカなんて来なければいい、ぼくなんかは批判でも嫌味でもなく心からそう思います。


でも『あなたは何をしにアメリカに留学しに来たのですか?』って言われても、ぼくも今のところはっきりと答えることはできません。ぼんやりと自分の心のうちに思うことはあるけれど、まだまだ言葉というかたちをとってあらわれるような時期ではないのだと思う。ただ、アメリカに留学することにしてよかったということは間違いなく言える。もちろん勉強はたいへんだし、英語も通じないこともあるし、キンキンに冷えた生ビールは飲めないし、カツオのたたきも食べられないし、おいしい野菜もないし、いろいろと不満を言えばキリがないけど、そんなことも含め、全く新しい場所でのいろんな体験を通じて、いろんな物事を違った視点から見ることができるのはとても楽しい。自分を構成しているシステムみたいなものが、毎日少しずつカチカチと小さな音を立ててかたちを変えていっているような。だから『日本に帰りたい』という気持ちも今のところあまり感じていません。だいたい、あと2年間したら否応なく帰国しないといけないのというのに、なんでわざわざその期間を短くする必要があるのだろう?とぼくなんかは思うのだけれど。


たぶん、ぼくの同業者とかで留学している人とはちょっと違った風がぼくに吹いているのかもしれない、と最近思っています。みんな一生懸命勉強をして、いろんな人と学校で議論をして、あるいはプライベートで交流したりして『アメリカ』を感じているのだろうな、とたまに連絡をとったりする度に感じたりする。でも、少なくとも今のところ、ぼくは一体何が『アメリカ』なのかということを、よくわかっていません。もちろん、ここが日本とは違うのはわかるけれど、そして『その特徴を挙げろ』と言われたら幾つか挙げることはできるけれど、そんなやり方で出てくるものにはあまり意味はない。日々の生活を送っている中で、何かしらの雰囲気を感じることはあるけれど、それはぼくが今まで考えていたものとは少し違ったもの。でも、もしかしたらそれがアメリカの何かなのかもしれないね。

『違う風』と言ったもう一つ理由は、アメリカに来てから、日本にいるとき以上に様々な人が持つ物語を聞くようになったということ。海外からアメリカに来ている人からしたら、アメリカという場所に来ることで自分の国では話せなかったことを話してもいいという気持ちになるのかもしれない。もしかしたらアメリカにいる中で、何かしら自分を変えることができると思っているのかもしれない。そういう話を聞くたびに、もしかしたら日本で暮らしているときも、自分の身近に悩みを口に出すことすらできずに苦しんでいた人がいたのかもしれないな、と思います。昔は大学時代に何となく留学しているように思える学生(もちろんぼくの友達にはそうでない立派な留学経験者がたくさんいます)とか見ると『ふん』と思っていたし、今でもUCSDでチャラチャラ遊んでいる日本人の学生とか見ると『むむむ・・・』と思うけれど、『日本にいると生きることに息が詰まって、どうにかしようとアメリカに来ました』とかいう話を聞いたりすると、この機会がその人に良き何かを与えてくれるといいな、と心から思います。


『2年間で何をするか、キチンと決めて実行すること。アメリカでの2年間の留学期間にできなければ、日本に帰ってきてもできない!』という職場の上司の熱い激励の言葉に反して、何となく自分の心の感じるままに日々を送っているぼくだけど、そっちの方が逆にいろんなものを素直に受け止められているような気する。『自分はこれを成し遂げるんだ!』って力を入れたところで自分の感性を縛ってしまうだけかもしれない。そして、たぶんアメリカだって日本だって、別にそういう意味で特別な場所じゃない。特別なのは常にそこにいる人であり、その人たちが持っている物語。だからぼくはここに来ているのです。


さて、今日は木曜日までの宿題を半分くらい終わらせようと思っていたけれど、もう夜の11時だし、明日の朝は6時起床だから、どうやらムリみたいですね。だいたい、このブログを書き始めた時点でそんな気はしていたのだけれど。まぁでも一応あと数時間がんばってから寝ることにしよう。何と言ったって大学院生だしね。


写真は週末、勉強に疲れて久しぶりに見に行ったLa Jolla Shoresの夕陽。日本にいるときはあまり考えたことなかったけど、海の上にどこまでも広がる夕焼け空を眺めているうちに、この空は世界中のどこまでも続いていて、その下でいろんな国の人が生活しているんだな、ってふと思ったりしました。やっぱり海っていいね。