人の心をめぐる戦い

poriporiguchi2008-10-17

今日はちょっとカタい話。
この前、あるところで『人の心をめぐる戦い』という言葉を聞きました。
これは以前、イラク駐留多国籍軍司令官だったデイビッド・ペトレイアスが言った言葉で、イラク人やアフガン人が自らの手で国家を再建するという目標のためには、イラクやアフガンにおける戦闘は敵勢力の軍事的圧倒という旧来の戦争概念を超えて彼らの心を獲得しなければならない、ということを意味しています。
アフガン戦争やイラク戦争を評価することはここでの目的ではないのでその内容には踏み込みませんが、『人の心をめぐる戦い』という言葉はペトレイアスが考えるところの意味を超えて、様々なことを僕に考えさせます。
その絶対的な破壊力のために『実際には使えない』と言われる核兵器による抑止のもと、米国とソ連が高度に戦略的なバランスをとり続けた冷戦時代は、1991年のソ連の崩壊というかたちで終焉しました。その結果、軍事的には自国を頂点とする一極構造へと移行したわけですが、そこで米国を待っていたのは暗闇の中に敵の姿すら見えない恐怖の世界でした。
911テロは米国に大きな打撃を与え、それは米国の『自衛権の行使』としてのアフガン戦争、さらにはイラク戦争へとつながっていきます。『自衛権の行使』という解釈には様々な議論があるけれど、この言葉は米国を戦争へと導いたものが他でもない『見えない敵への恐怖心』であることをあらわしているのだと思うのです。
思想の対立を軸とした大国間の核抑止という、ある意味でフィクションとも言える冷戦時代を超えた先にあったのが戦略的思考の成立しない、人間の根底にある恐怖心をめぐる戦争であるなんて、とても皮肉な話だなと思います。テロリストにしろフセインにしろ米国の『自衛権の行使』にしろ、これは結局、人間の心にある感情をめぐる戦争なのではないかなと思うのです。


話は変わりますが、一昨日DVDで『エレファント』という映画を見ました。1999年にアメリカのコロラド州で起きたコロンバイン高校銃乱射事件をテーマとしており、ベートーベンの『月光』とともに始まるこの映画は、美しく鮮やかな映像で高校生の平穏な一日を静かに描いていきます。余計な説明はなく、劇的な展開もありません。詳しくは書かないけれど見終わったときに僕が思ったのは、きっとその日、そこにいた人たちにとっては、事件が起こるまで特別なことなんて何もなかったんだろうな、ってこと。いじめの問題とかマスコミによって後から語られたけど、それも含めて彼ら彼女らの一部だったんだろうと。
いろいろ考え方はあるけど、僕たちのいるこの世界には誰も気がつかない落とし穴みたいなものがあって、そこに落ちてしまったときのことが後から悲惨な事件として語られるんじゃないかなって思うことがあります。それはもともとそこにあったし、もしかしたら普通に生きていく過程で自分たちがつくりだしているものなのかもしれません。だからある日、何かが起こるまでは、特別なことなんて何もないんじゃないか、って。
ぼんやりとだけど、戦争とかについても同じようなことが言えるんじゃないかなって思ったりもするのです。どこでも人は心をめぐって静かに戦っているんだ。個人にしろ、国家にしろ、その根底にあるのは人の心なんだ。それが良きものにしろ、悪しきものにしろ。
だからといって『じゃあ仕方ないじゃん』って思っているわけでは決してないけれど。
興味がある人は見てみてくださいね。銃撃シーンとかがダメな人にはお勧めはしないけど、そこにあったものをリアルに伝えるとても印象的な映画だと思います。
晴れる日が続きますね。気持ちも明るくなります。明日は早く起きて走りに行こっかな。